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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)30号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について判断する。

1 本件考案が、当事者間に争いのない前記本件考案の要旨のとおりの構成からなる二人用動力茶葉摘採機に係るもので、その目的とするところが請求の原因四1(一)のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そして、前記争いのない本件考案の要旨、成立につき争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によれば、本件考案に係る二人用動力茶葉摘採機を用いての作業は、茶畝の左右半分づつを往復して行うものであり、まず、第1図に示されたように刈取面Aを畝上面の片方に合わせ、二人の作業者が把手a、a´をもつて進行し、該畝の終端まで摘採したのち、今度は他の片方の上面に摘採機を沿わせて進行するのであるが、この作業上の重要な注意点は、畝上面の頂辺(第1図の矢印イの部分)に段差を残すことなく整然と一様に摘採することにあること(段差を残す作業をすると、摘採した芯葉に大小、長短の形状ムラを生じ、葉切れ、こま切れをして原葉を傷め、製茶加工にも弊害をもたらすだけでなく、後の整枝作業が面倒になり、外観もわるい。)(同公報一欄三四行ないし二欄九行)、従来のこの種摘採機にあつては、第2図に示されたように、機筐の側板bが風胴cを架設するために前方に著しく突出しており、底板d前辺に沿つて位置する刈刃eは、横方向からは見えず、したがつて、把手を持つた作業者は矢印ハの視線になるまで作業姿勢を崩さざるを得なくなるが(矢印ロの位置が自然な体勢での視線の位置)、この姿勢は、第3図に示されたように、中腰で進行後ろ向きであり、しかも相当後ろ倒しの姿勢であつて、上腕は機体を持ち上げるような、極めて危険、苦痛な姿勢を強いられるものであつたこと(二欄九行ないし二一行)、並びに本件考案は右のような従来からの二人用動力茶葉摘採機のもつ欠点を解消すべく少なくとも動力部を搭載する側の側板に刈刃が露見する切欠部を形成することによつて、自然な姿勢のうちに、良好な摘採作業ができるようにしたものであること(二欄二二行ないし二五行)であること、本件考案における構成上欠くことができない事項である「切欠部の形成」の構成(第一引用例には茶摘機がこの構成を備えていることについての記載はなく、この点が両者の相違点であることは当事者間に争いがない。)の採択により、刈刃のほぼ全面を自然な姿勢で監視できるようにして、畝上面の頂辺に段差を残すことなく一様な摘採作業できる効果、具体的には、<1>「作業者が畝をはさんで向き合い、把手11、11´を夫々持つて前述の様に歩行進行すれば、刈刃8で剪断された芯葉は風胴7からの圧風で機筐後方へ吹き飛ばされ、収容袋12へ次々と収容されてゆく、その進行の際、および復路における進行の際、把手11を持つた作業者は、従来の如き不安定・危険な姿勢をとるまでもなく、ほぼ自然に機体を持つたままの姿勢で、側板1の切欠部13から刈刃8を常に監視できるから、刈り込みの深浅、および復路時の畝頂辺の一様性が瞭然に目視できる」(本件実用新案公報三欄六行ないし一六行)<2>「その構造は極めて簡単であるが、比較的重い(一六kg~二〇kg程度)機体を持ちながら狭い畝間を歩行する作業者にとつて、刈刃と畝上面の適合具合がほぼ自然な姿勢のままで監視できることになり、その安全性、疲労度が向上し、しかも一様な芯葉を摘採できる。特に、この摘採作業を、婦女子、老人等が行なう時は、本考案の効果は多大であり、又、樹丈の高い成木園においても、あるいは樹丈の低い幼木園においても、その刈刃の監視が著しく容易となる。」(三欄二〇行ないし四欄一〇行)効果を奏することが認められる。

右のような本件考案の奏する効果のうち、原告は、切欠部を通して監視できる範囲について、作業者が自然な姿勢で監視できるのは、茶葉摘採作業の復路時だけで、しかも、畝上面の頂辺から手前に突出させたほぼ一側端部にすぎず、「常に刈刃のほぼ全面」が監視できるものではない旨主張し、いずれも原告主張のとおりの被写体を撮影した写真であることについて当事者間に争いがない甲第一四号証(本件考案の実施品PH―110の写真)、第一六号証(茶樹模型上における作業状態の写真)、第一八号証の一、二及び第一九号証(前記作業状態に対するカメラの位置の写真)、第二〇号証(刈刃の監視状況写真)、第二一号証(同)、第二三号証(同)及び成立に争いのない甲第二七号証の一ないし三(本件考案の実施品についての説明図)を提出するが、本件審決においても、「刈刃のほぼ全面」を監視できる点を本件考案の効果の一つとして認定しているものでないことは、成立に争いのない甲第一号証(本件審決)の「切欠部の形成」による効果についての記載に照らして明らかであり、また、前記認定の二人用動力茶葉摘採機を用いての摘採作業において最も重要な畝上面の頂辺における段差のない摘採は、特に復路時において、既に摘採した往路の刈り込み深さに一致させるよう摘採すれば、実現することができるのであるから、切欠部を通して常に刈刃のほぼ全面を監視することが必ずしも要求されることとはいえず、自然な姿勢で、復路時において切欠部から刈込境と刈刃を監視できれば本件考案の目的とするところは達成されるものであると認められる。ところで、本件考案に係る二人用動力茶葉摘採機を用いる茶園の茶樹の高さなどの状態は必ずしも統一されているものではなく(成立に争いのない甲第一二号証・静岡県茶業会議所・昭和四七年一〇月一日発行「茶」二五巻一〇号)、また、側板における「切欠部」の大きさ、態様等は、茶摘採機の他の構成部分との相関関係によつて種々に変わり得るものであるから、特定の実施品に「切欠部」の形成されたものがあり、これについて、特定の茶樹を仮定して刈刃の監視状況をみたとしても、その結果を、直ちに、本件考案の効果とみることはできない。したがつて、原告提出に係る前掲甲号証によつても、本件考案の詳細な説明欄に記載された前記認定の効果を否定することはできない。本件考案における「切欠部の形成」による効果のうち、復路時の摘採作業において刈刃の見える範囲が、仮に原告の主張する程度であるとしても、これによつて本件考案の主要な目的は達成されるものと認められるのであり、更に、往路時の摘採作業について考えてみても、本件考案においては、側面に切欠部を形成して、刈刃に向かう作業者の視線の通る範囲を広げているのであるから、たとえ、芯葉の密生があつても、芯葉の間隙から切欠部を通して機筐の内側から刈刃を見ることのできる余地は、従来のものと比べて遥かに大きいものとみるのが合理的であり、本件考案の詳細な説明欄にあるように「刈り込みの深浅」などの確認調整などに寄与するものと推認でき、原告提出に係る前掲甲号各証によつても、右の推認を覆すことはできない。

したがつて、本件考案の奏する効果についての原告の主張は採用の限りでない。

2 取消事由1の主張について

原告は、各引用例、特に第一引用例、第三引用例及び第四引用例には、本件考案と第一引用例との相違点である「切欠部の形成」の点が示唆されている旨主張するが、以下検討するとおり、この点の原告の主張は採用できない。すなわち、

(一) まず、第一引用例ないし第五引用例(いずれも本件考案に係る出願前に日本国内において頒布された刊行物であること、各引用例に審決摘示の事項が記載されていること(但し、後記のとおり、第三引用例について「吸入漏斗の前端には」は「吸入漏斗の前端三方には」とすべきである。)については、当事者間に争いはない。)のうち、第三引用例及び第四引用例について検討するに、成立に争いのない甲第五号証(昭三二―一〇六三号特許公報)及び甲第六号証(昭三八―二六六三八号実用新案公報)によれば、第三引用例は、一人用の自動式茶採集機に係る特許公報であり、ここには、刃物を取り付けた吸引漏斗の前端の三方に適宜幅の透明覆板を取り付け、茶葉の刈り取りと吸い込み状況を透視できる構成をもつた審決摘示に係る一人用の自動式茶採集機が、また、第四引用例には、刃板を取り付けた底板上に透明カバーを展張した枠体を装設し、透明カバーを通して茶摘状況を確認しようとした審決摘示に係る一人用の自動式茶摘鋏が、それぞれ示されているが、これらは、いずれも本件考案に係る二人用動力茶葉摘採機とはこれを用いてする作業態様が異なるのみならず、機械自体の構成も著しく相違するものであると認められるから、ここにみられる「透明覆板」や「透明カバー」から、側板の前方突出部間に多数の吐出小管を設けた風胴を架設した構成をもつ二人用動力茶葉摘採機において側板の前部に、刈刃が露見する切欠部を形成するという構成を示唆するものを酌み取ることは困難である。

(二) 審決摘示に係る第一引用例の記載及び成立に争いのない甲第三号証(昭五一―四九三四一号実用新案公報)によるも、同引用例には刈刃の監視についての記載は見いだせない。たしかに、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の第3図には、原告指摘のとおり「底板の前方縁に沿設したバリカン式摘取体は、その後端部付近を、横方向からみて後方斜下方に傾斜するように形成した側板の前方辺の下端に位置させて、側板の前方縁の下端から前方へ突出させる」という構成が開示されていることが認められるものの、原告のいう側板が裾側(動力部を搭載する反対側)の側板であることは、第一引用例の図面の簡単な説明欄に「第3図は側断面図」と記載されていることから明らかであり、仮に、前記側板が動力部搭載側のものであるとしても、第一引用例には、バリカン式摘取体を前叙のとおり突出させて構成した点についての技術的説明がないことからして、この点に格別の意義があるのか、あるとしていかなる目的ないし効果を意図したものか断定し得ないから、「バリカン式摘取体が側板の前方縁の下端から前方に突出している」構成から、本件考案のごとく「側板の前部に切刃が露見する切欠部を設ける」構成が示唆されているとみることはできない(第3図をみても、バリカン式摘取体の端部が側板に対してどの程度離れているのか不明確であり、かつ側板の傾斜部は、比較的小さいので、茶摘採作業の際に刈刃と畝上面との適合状態が自然な姿勢のままで監視できるのか疑問視される。)。

(三) 更に、審決摘示に係る第二及び第五引用例の記載、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例・昭四五―五四一九号特許公報)及び甲第七号証(第五引用例・昭五二―一八九二三号)をみても、本件考案における「切欠部の形成」を示唆すると認められる記述はない。

(四) したがつて、各引用例に本件考案の構成上の特徴である「切欠部の形成」の点を示唆する記載がないとした本件審決の認定には、何ら誤りはない。

なお、原告主張のように、一人用茶摘機において作業者が自然な姿勢で刈刃を監視して茶葉を良好に摘採するという課題が、第三引用例及び第四引用例にみられるように公知であるとしても、右課題のみからはもとより、第一引用例記載のバリカン式摘取体の前記構成の技術的意義が明らかでない以上、右課題と同引用例記載を合わせても、本件考案の「切欠部の形成」の構成をきわめて容易に想到することはできないし、また、障子に遮られてみえない場合に、障子紙の穴を開けるという一般的な考慮でその進歩性を否定することはできない。この点の原告の主張は採用の限りでない。

3 取消事由2の主張について

原告は、本件考案の奏する効果について、本件審決が第一引用例ないし第五引用例に記載されたものと比較して格段の効果であるとした判断の誤りを主張し、特に、本件考案の効果は、第一引用例記載のものの効果とほぼ同じである旨主張するが、第一引用例には、すでに認定したところから明らかなごとく刈刃の監視をしようという技術的思想は開示されていないのであるから、本件考案と第一引用例記載の茶摘機の奏する効果とがほぼ同じであるとは到底いえない。第一引用例の第3図をみても、バリカン式摘取体と側板との関係が、本件考案におけるように、刈刃と畝上面の適合具合を監視しながら摘採を行うことができるようになつているものと断定できない以上、本件考案と第一引用例記載のものとの間には効果上格別の相違があるものとみざるを得ない。また、本件考案の効果が、その他の引用例記載のものと異なることはすでに認定判断したところから明らかである。したがつて、原告の右の主張も失当であり、本件考案が、各引用例記載のものと比較して格別の効果を奏するものと認めた本件審決の判断は正当である。

4 右のとおり本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、いずれも理由がないものというべきである。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。

よつて、これを棄却することとする。

〔編注1〕本件考案の要旨は左のとおりである。

前方突出部6を形成した一側板1と他側板1および底板4と上板5とで前後を開口した機筐を構成し、該機筐の一側板1辺りに原動機2、フアン3を搭載し、上記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し、底板4前方縁には刈刃8を沿設すると共に、前記側板1の前部には、該刈刃8が露見する切欠部13を形成し、機筐両側には把手11、11´を、又後方には収容袋12を着脱自在に装着してなる、二人用動力茶葉摘採機(別紙図面(一)参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

(以下省略)

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